far beyond

04


―パーティ会場
「はじめに将軍へあいさつをしに行くよ。」
「へーい。」
「こら、言葉使い。」
「ワカリマシタワ。」
そんな2人のやり取りを聞いていてリザとハボックは苦笑いをしていた。
そして、将軍の所へ行くと、将軍のそばには将軍の娘が立っていた。
「将軍。本日はお招きくださってありがとうございます。」
「よく来てくれたな。これが、今日の主役の私の娘だ。」
将軍が娘を紹介すると娘は一礼してから話し出した。
「ごきげんよう、ロイ様。本日は私くしの誕生日パーティへきてくださってありがとうございます。」
「こちらこそ、ご招待ありがとうございます。」
「ところで、ロイ様。そちらのお嬢様はどなたですの?」
「おお、私も気になっていたんだよ。マスタング君、そのお嬢さんはどなたかね?」
早速聞いてきたか、とハボックは思ったが、ロイはいたって普通にエドワードを紹介した。
「こちらは、私の婚約者で、名をエディ・カーティスと言います。エディ、ご挨拶を。」
とロイに促されエドワードも将軍と娘に挨拶をした。
「はじめまして。エディ・カーティスと申します。本日はロイ様に誘われ、パーティに参加させて頂くことになりました。」
最後は笑顔で締めくくった。エドワードは内心、我ながらやればできるじゃねぇか、と思っていた。
「これは、これは。マスタング君にはもうこんな美しい婚約者がおられたとは。残念だ。」
「残念とは?」
ロイはわざと将軍に尋ねた。
「君が1人者だと聞いたからね、我が娘はどうかと思っていたんだがね。婚約者がいるのならしかたあるまい。ところで、カーティスさん
と言ったかね。君はマスタング君とはどこで知り合ったのかね。」
「私くしの父がロイ様の錬金術の先生でしたので、その時知り合いました。」
「最初は妹の様に思っておりましたが、いつからかそれが恋に変ったんです。それに気付くといてもたってもいられず、プロポーズした
んです。この可憐な少女が他の誰かのものになるなど耐えられなかったので。」
「まぁ、ロイ様ったら。恥ずかしいですわ。」
「しかたないだろう、事実なのだから。それに、エディの姿を色々な方にお披露目しておこうと思いまして。」
「ハハハハハ、そうかそうか。それに、仲がいいことはとても良いことだぞ。さて、そろそろ行こうかね。」
「はい、お父様。」
「では、マスタング君、カーティスさん。ゆっくりしていってくれたまえ。」
「ありがとうございます。」
将軍はそう言って、娘を連れてその場を去った。ロイはお礼を言い、エドワードは一礼をした。が、2人に声が届かないとわかれば、ロイ
とエドワードは疲れたように息をはくのだった。
「はぁ〜。疲れた〜。あの、将軍の娘ずっと、俺を睨んでたぜ。」
「ずっと、自分が君がいる場所に立つんだと信じて疑わなかったらしいから。」
「げ〜。今日ずっとあの視線受けなきゃならねえのかよ〜。」
「仕方ないだろう。」
将軍の娘はエドワードとロイが将軍と話している間中ずっとエドワードを睨んでいたのだった。まるで、親の仇をみるような目で・・・。
「しっかし、大将いきなりでよくあんなしゃべりかた出来たなぁ〜。」
「自分でも驚いてるよ。」
ハボックの言葉にエドワードは苦笑いしながら答えた。
「いや、本当によくしゃべれていたよ、鋼の。」
「大佐は恥ずかしいこと言い過ぎだ。」
「おや、本心を言ったまでだが。」
「うそつけ!あれ、マジ恥ずかしかったんだからな!」
「ははは、次からは気をつけよう。」
「大佐、エドワード君。ここはパーティ会場なのですから、言葉使いは戻さないよう願います。」
「そうだったな。では、エディ食事に行こうか。」
「ええ、ロイ様。」
そう言って2人は食事が置いてあるほうへと向かって行った。このパーティは立食形式でバイキングみたいになっているので食事は各
自で取って食べるようになっていた。
「あの2人ってなんだかんだ言っても結構お似合いですよね。」
「そうね。エドワード君も嫌がってはいたけど、大丈夫そうね。さ、私達も2人の後に着いていくわよ。」
「はい。」
リザとハボックもロイとエドワードを追って食事が置いてあるほうへと向かった。




「エディ、何が食べたい?」
「ロイ様にお任せいたしますわ。」
2人がそんな会話をしていると美男美女の2人を見て回りの人々はポーっとなっていた。
「たくさんいるかい?」
「いいえ、少しでいいです。」
「どうしたんだね?いつもはたくさん食べるのに。」
「何でもありませんわ。」
「大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫です。」
「しかし、少し顔色が悪いようだ。中尉!」
ロイはエドワードが少し顔色が悪いことに気付き、少し休ませようとリザを呼んだ。
「なにか?」
「エディが少し顔色が悪い。少し休ませてやってくれないか?」
「はい、わかりました。エディ様、大丈夫ですか?こちらへ。」
そして、リザはエドワードを会場の端にあった椅子へと座らせた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。ごめんなさい。」
「熱があがってきたのかもしれませんね。ここで、しばらく休んでいましょう。」
「本当ごめんなさい。」
「いいんですよ。倒れられても困りますからね。では、私は大佐にここにいることを報告しに行って参りますので、少しここを離れますが
、大丈夫ですか?」
「ええ。リザ様は行ってきてくださってかまいませんよ。」
「では、行って参りますが、他の男性についていってはいけませんよ。」
「わかってます。」
エドワードは笑顔でリザを見送った。リザは心配そうな顔をしながらエドワードの元を離れ、ロイのところへと行った。リザがエドワードの
元を離れた瞬間にそのチャンスを待っていたかのように男がエドワードに話しかけてきた。
「お嬢さん。」
「えっ?」
エドワードはいきなり見ず知らずの人に話し掛けられて驚いて固まっていると男はエドワードの手を取って話しだした。
「私はキャリー・スティーと申します。地位は准将です。お嬢さん、お名前を教えていただけますか?」
キャリー・スティーと名乗った男は、准将というので30は過ぎていることは予想できたが、20代でも通るような感じの好青年だった。
「えっ?あ、あの、エ、エディ・カーティスと申します。」
エドワードは准将と聞き、ロイより上の人なので失礼なことは出来ないと思い、自分の名を名乗った。
「エディ嬢!かわいらしいお名前だ!私のことはキャリーと呼んでいただいて結構ですよ。」
「え、あ、でも。」
「それに、あなたはとても美しい。声も美しいし、そのドレスもとてもよくお似合いですよ。」
「あ、ありがとう、ございます。」
エドワードがしどろもどろにお礼を言うと音楽が鳴り始め、ダンスが始まった。
「あ、ダンスが始まったようです。エディ嬢。お相手願いますか?」
「はっ?え、あの。」
エドワードが困っているとキャリーはエドワードの手を引き勝手にダンスの輪に入っていってしまった。
「あ、あの!ちょっと!困ります!私くしにはロイ様がおります!」
「いいではないですか。それとも私とでは嫌ですか?」
キャリーが悲しそうな目をするので、エドワードは断ることが出来なくなってしまった。
「そ、そんなことはありませんけど・・・。でも!」
「嫌ではないのなら私が相手でもかまいませんよね。」
「で、でも、私くしはダンスが踊れません。」
「大丈夫です。私がリードしますから。」
そう言ってキャリーはエドワードの腰に腕を回して、さりげなく自分のほうへと寄せて踊りだした。
しかし、エドワードはそれどころではなく、自分の体のことで精一杯だった。
(あ〜、なんか頭が回っている感じがするし頭痛ぇ〜。気分悪いし、顔熱くなってきてる。熱があがってきたかも。)
エドワードはつらくなり少しキャリーの体へと自分の体をもたれさした。キャリーはそんなエドワードに気をよくし更に自分の方へと引き
寄せ完全に密着した状態で踊っていたが、エドワードには限界が近づいてきていた。



エドワードが声を掛けられ困っているとは知らずに、リザはロイに報告に来ていた。
「大佐。エディ様はあちらの端の方に置いてある椅子にて休んでおられます。」
リザがエドワードがいたところを伝えるが人が多く、全員立っているのでエドワードの姿は見えなかった。
「そうか、すまなかったな中尉。」
「いいえ、かまいません。」
「しかし、どうしたのか。」
「人に酔ったんじゃないですか?」
「・・・・・そうかもしれんな。」
「確かに人は多いですね。」
リザは本当のことは言わず、辺りを見渡しながら言った。と、その時音楽が鳴り始めた。ダンスの開始だ。
「おっ、ダンス始まりましたね。」
「ああ、本当はエディと踊るはずだったんだが、調子が悪いのでは、無理をさせるわけにはいくまい。」
「そうですね。無理をさして悪化したら大変ですし。」
「あっ!!た、大佐!!大変です!!」
ロイとリザが話していると、ダンスの様子を見ていたハボックがいきなり声を上げた。
「どうしたハボック?」
ロイが不思議に思ってハボックに尋ねるとハボックは慌てたようにロイに言った。
「あれ!あれって、エディじゃないっすか?!」
「何?!」
「どこ?!」
「あそこっす!スティー准将と一緒に踊ってるの!」
ハボックが言ったところを見てみるとそこには完全に密着しているキャリーとエドワードがいた。
「な、なぜあそこにエディ様がいらっしゃるの?!それに、なぜスティー准将と?!」
「わ、わかんねぇっす。あっ!大佐!」
「大佐!!」
ハボックとリザが止めるのも聞かずにロイはズンズンとダンスの輪に入っていった。
そして、キャリーとエドワードの前までいくと地の底から出たような声でキャリーに話かけた。
「スティー准将、お久しぶりです。」
しかしキャリーは驚いた様子もなくロイに返事をした。
「ああ、マスタング君か、久しぶりだな。で、何のようだ?今私はダンス中なのだが。」
「あなたのダンスの相手は私の婚約者なのですが。」
「そうなのかい?しかし、彼女は快く私の相手を受けてくたよ。ほら、今も彼女から私に身を預けているんだが。」
「っ!そんなはずはありません!エディが私を裏切るはずがありません!エディ!!」
「・・・・・・・・ロ、ロイ様・・・・?」
ロイが必死になってエドワードを呼ぶとエドワードは少し顔をあげてロイの名を呼んだ。
「エディ!!私だ!!こっちにおいで!」
「・・・・・ロイ様・・・・・」
エドワードがロイの方へ行こうとすると、キャリーがそれを止めた。
「エディ嬢。あなたは今私とダンス中ですよ。それに、あなたは私とのダンスと受けてくださったではありませんか。」
「私くしはキャリー様とのダンスをお受けした覚えはありません。キャリー様が勝手に私くしをダンスの輪へと引っ張ってきたのではあり
ませんか。」
エドワードはキッパリとキャリーの言葉を否定してロイの元へと行こうとしたが、突然ガクッと崩れかけてしまった。
「エディ!!!!」
ギリギリでロイがエドワードの体を受け止め、地面にぶつかるのだけは避けられた。
「エディ!!大丈夫かい?!」
「エディ嬢!!」
キャリーがエドワードの名を呼び、エドワードの元へ行こうとするのをロイが止めた。
「スティー准将。いくら准将といえども、軽々しく私の婚約者の名を呼び、触れないで頂きたい。」
そして、ロイはキャリーを睨みエドワードを横抱きにして抱え、その場を後にした。そして、ハボックとリザもロイに続き、そこには悔しそう
なキャリーだけが残った。



「鋼の、大丈夫かい?」
あの後、将軍が来て、部屋をひとつ使わせてもらえることになった。部屋には、ロイとエドワードとリザがおり、ハボックは扉の前で見張
りをしている。エドワードはその部屋にあったベッドに横になっていた。
「ああ、大丈夫だ。」
「エド君、どうして准将についていった?私、他の男の人についていってはいけないと言ったのに。」
「ごめん、中尉。中尉がいなくなってすぐに話し掛けてきてビックリしてたら、准将だっていうし、俺、とりあえず大佐の婚約者だし、失礼
なことしたらダメだと思って。」
「エド君・・・」
「でも、ダンスは断れただろう。」
「俺、困るって言ったんだ。大佐がいるからって。でも、悲しそうな目、するし。あの人強引だし、断れなくて・・・。それに、俺限界だったし
・・・。ごめん。」
「仕方ないわ。」
「大佐、俺のことはいいからパーティ行かなくていいのかよ。将軍の娘さん警護しなくちゃならねぇんだろ?」
「将軍は、君が落ち着いたらでいいとおっしゃってくれたし心配してらしたよ。」
「そっか、じゃあ、お礼言わないとな。俺も行くよ。」
「エド君!ダメよ!寝てなくちゃ!」
引き続きパーティに参加すると言い出したエドワードをリザが慌てて止めた。
「そうだぞ、鋼の。また君倒れられてはかなわん。」
「でも、俺がここにいると気がちるだろ?どうせだったら同じところにいたほうがいいじゃん。」
「・・・・・それも、そうだな。」
「大佐!!」
エドワードの言葉に納得したロイにリザが慌てた。
「中尉、君の気持ちはわからんではない。しかし、鋼のがそう簡単に自分の意志を変えると思うかね。」
「しかし・・・。」
「中尉、心配してくれてありがとう。でも、俺は大丈夫だよ。」
「・・・・・・・・・・わかりました。でも、気をつけてね。」
「うん。」
「では、行こうかエディ。」
「はい。」
2人は腕を組み、部屋の外へと出て行った。リザは溜息を1つつくと、自分も部屋の外へと出た。そして、4人は会場の方へと足を進めた





「おお、エディ殿。体調のほうは大丈夫かね。」
4人が会場のほうへ戻ると真っ先に将軍が声をかけてきた。エドワードは一礼をして笑顔で言った。
「ありがとうございます。ご心配をおかけして申し訳ありません、将軍。もう大丈夫でございます。」
「そうか、それは良かった。スティー君にはお帰り願ったよ。では、ゆっくりとしていってくだされ。」
そして、将軍は違う人の所へと行ってしまった。
「よかったね、エディ。准将はお帰りになったって。」
「ええ、よかったですわ。」
「でも、君は美しいんだから色んな輩が目をつけているから注意しなさい。それに、今日は一段と美しいんだから。」
「美しくはないと思いますけど、気をつけますわ。」
ロイは内心、自覚がないから困るな。こんなに視線が集中しているのに気が付かないなんて、鈍いな、と本気で思っていた。
そして、4人があいている椅子にエドワードを座らせ話していると、1人の男がロイに近づき将軍が呼んでいると伝えた。
「マスタング大佐、将軍がお呼びです。」
「わかった、すぐ行こう。」
「では、私は失礼いたします。」
そう言って男はロイたちの前から姿を消した。
「すまない、エディ。将軍に呼ばれたから行かないといけない。」
「私くしは大丈夫ですので、いってきてください。」
「すまない。ホークアイ中尉、ハボック少尉。エディを頼む。」
「わかりました。」
「任せてください。」
そして、ロイはエドワードたちの前から姿を消し、将軍のもとへと行った。



その後、しばらく3人で話していると、1人の女性が近づいてきた。
「エディ・カーティス様、ちょっといいかしら?」
エドワードが顔を上げると、そこには、将軍の娘が立っていた。